カメラと十字キーの蜜月関係

 マリオ64の冒頭において、ジュゲムがカメラを携えてマリオに断りを入れるシーンがある。


 あのシーンは決定的なシーンだった。あの時、カメラと十字キー(3Dスティック)の蜜月関係は終わったのだ。


 そして、あのゲームで、我々は、カメラワークが如何にゲームに影響を与えるかってことを知った。3Dゲームにおけるカメラワークの重要性に私達は気付いてしまったのだ。


 それまで、私達は、カメラのことなんて考える必要は無かった。そもそもカメラの存在にすら気付いていなかったんじゃないだろうか?


 だが、我々は気付いてしまった。
横スクロールのゲームとは、プレイヤーのキャラクターが、右に移動するのと同時に、カメラも右に移動していたのだ。
ドラゴンクエストの主人公は基本的に画面の中央に位置しているが、それは、上下左右への主人公の移動に伴い、カメラも上下左右に同時に移動していたのだ。


 そう考えると、2Dのゲームが如何に洗練された操作体系を備えていたかってことに驚かされる。移動とカメラワークという両立が困難な操作を十字キー一つで完璧に行えていたのだから。


 宮本茂はやはり、天才だった。彼は3Dゲームを作るにあたって、誰よりも先に、カメラの重要性に気付いてしまったのだ。そして、その気付きは、3Dゲームの制作がどれだけ困難なものになるかを彼に悟らせてしまったのだ。


 だから、マリオ64では、冒頭でジュゲムが教えてくれるのだ。
あなたはこれから、カメラというものを意識しながらゲームをプレイしなければならないということを。幸せな時代が終わり、新しい時代が始まるのだということを。


 任天堂のカメラへの取り組みの歴史はここから始まる。
ほのぼのとしたあのシーンは、ある意味とても哀しい別れのシーンのように私には思えるのだ。