ゲームにおけるアクセルとブレーキについて

 アクセルとブレーキという二つの要素からゲームについて考えてみよう。


 アクセルとは、何かを増加することによって、何かしらのメリットを生みつつも何らかのリスクを発生させるスイッチで、ブレーキとは、何かを減少させることで、ゲーム中に発生するリスクを減らすスイッチだと思って欲しい。


 レースゲームではアクセルとブレーキはもうそのまんまの要素として使用されてますね。アクセルを踏むことで、スピードが加速されるけど、カーブで曲がりきれなくなるとか、障害物にぶつかり易くなるというリスクが発生する。そこで、ブレーキで速度を減少させることで、それらのリスクを回避し易くなるわけである。


 横スクロールアクションというジャンルが画期的だったのは、プレイヤーが任意に止まることが出来るってところだったのだと僕は思っている。横スクロールアクションは、ゲームにブレーキという要素を加えることで、プレイヤーごとにリスクを変化させることが出来たのだと僕は考える。


 さらに、スーパーマリオというタイトルは、Bダッシュという名前のアクセルを加えることに成功したタイトルなのだ。下手な人はゆっくり進めばいいし、上手い人はアクセル全開、Bダッシュ全開で進めばよい、そうすることで、このタイトルは、老若男女を問わず遊べるだけの懐の深さを得たのである。


 さらに、操作すること面白さ、操作感自体の快感という観点から、アクセルとブレーキを考えてみよう。車のアクセルとブレーキを想像してもらえばいいんですが、大抵の人は、アクセルを踏み込んで、車がググッと加速したときに、操作の快感、車を運転する快感を得るのではないかと思う。ブレーキ踏んで減速するのが楽しくてしょうがないって人はかなり稀なんじゃないかと思う。ゲームにおいても、アクセル的な操作している時に、操作することの快感、面白みを得やすいし、ブレーキ的な操作をしている時に、面白みを感じることは難しいんじゃないだろうか。


 昔のレースゲームでブレーキを踏むという要素がそれほど重要じゃなかったのは、やっぱりアクセル全開で走りっぱなしのほうが単純に楽しかったからだと思う。グランツーリスモがその圧倒的なリアリティでプレイヤーを説得するまで、レースゲームにおいてブレーキはそれほど重要ではなかったのである。


 このアクセルとブレーキという考え方は、単純にスピードの増減というだけではなく、別のゲームにも応用できると思っている。たとえばギアーズオブウォーで壁に貼り付いている状態、カバーアクションをしている状態は、ブレーキを掛けた状態で、そこから上半身を乗り出して射撃してる状態はアクセルを踏んでいる状態だと言えるのではないだろうか。壁に貼り付いていれば、とりあえずは安全だけど、敵は次第に接近して危険になるが、射撃をしっぱなしでは敵の格好の的にもなってしまう。上手になれば、ブレーキを踏むのは最小限にして、敵を正確な射撃で始末できるし、腕に自信がなければ、きっちり壁の影に身を隠して、ゆっくり攻略していけばいい。アクセルとブレーキの要素があるゲームは、プレイヤーごとの攻略ペース配分が出来るゲームになっていると思う。


 ベヨネッタもこの考え方で捉えると、敵の攻撃を躱すというブレーキ的な要素の後に、ウィッチタイムという爆発的な加速能力が発動するという、ブレーキの後にアクセルが踏み込める仕掛けになっているのがわかる。敵に向かって流麗なコンボを決める(アクセル)→その間に敵が繰り出す攻撃を躱す(ブレーキ)→ウィッチタイム発動(さらなるアクセル)という具合に、本来なら快感を生み出しにくいブレーキ的要素のあとにボーナス的なアクセル要素を組み入れることでつねにプレイヤーを攻めの状態、アクセル全開の状態に持っていくあたり、ゲーム業界きってのS型クリエイターだと個人的に思っている神谷英樹氏の真骨頂ではないだろうか。


 ブレーキ的な要素がゲーム的な快感を全く生まないかと言えばそういう訳でもない。TVゲームにおいて最も美しくブレーキがデザインされたのが「ICO」ではないかと僕は思っている。あのゲームの主人公ICOが守るヒロイン、ヨルダは明らかにゲームにおいてブレーキとして作用しているのだけど、でもそれこそがあのゲームの核になっている。ヨルダと手をつなぐとなぜかBダッシュが出来てパワー爆裂ってなったら、ヨルダがゲームのアクセルとなったら、それはそれで面白そうではあるのだけれど、それではあのゲームの繊細な魅力はぶち壊しなのである。


 ゲームというのはリスクとリターンという考え方、なんかしらの苦労を超えた先にご褒美を設定することで、面白みをつくるという考え方で設計される場合が多いのではないかと思うのだけれど、僕が好きなゲームというのは、操作することそのものが面白いゲームである場合が多い。そういった種類のゲームはリスクとリターンという考え方では魅力を語りきれないのではないかと僕は思う。そのため、アクセルとブレーキという考え方を今回はしてみた。これを元にもう少し色々と語れると思うのだけど、今日はこの辺でドロンさせて頂きます。