マジコンの被害は数兆円では済まない

 こんな記事があった。

http://digimaga.net/2010/04/is-the-damage-total-by-r4-several-trillion-yen-really.html

 この記事で引き合いに出されてる朝日新聞の記事なんだけど、確かに見出しの被害数兆円規模っていう文句はセンセーショナルだけど、内容自体はけっこうまともというか、かなり良い記事だと言っていいのではないかと思う。特に、日本や北米に比べて欧州市場の落ち込みがひどいこと(45%減!)などを報じてるのは、ポイント高いなと思った。
http://www.asahi.com/business/update/0403/OSK201004030001.html


 んで、問題は冒頭のデジタルマガジンの篠原氏の記事なんだけど、正直何を言ってるんだろうなと思った。


 篠原氏の記事は主にダウンロード数×平均単価で被害額を計算するのはおかしいだろってことを言ってるんだけど、でもそれはそれで一つの確かな数字なわけじゃない。仮に5000円のソフトが違法に100万ダウンロードされたとする。本来ならば50億円のお金が動いてなければおかしい筈なんだから、被害規模50億円という数字が出るのは間違ってはいないと思う。50億のお金が動かなければおかしい筈なのに一円も動かなかったという一つの事実と、実際に訴訟を起こしてデータバラまいたうp主に50億円の損害賠償を請求するかっていうことはまた別の次元の話ではないかと思う。


 というか比較的まともな朝日の記事にこのようなしょうもないアングルでプロレスを仕掛けることで、マジコンを巡る議論の質がネット界隈では地の底まで落ちそうで正味の話頭が痛いです。


 この記事の結論部なんて何も言ってないも同然じゃないですか。メーカーの努力が足りないのではないか?革新を期待したいって、本当に何を言っているのでしょうか?何も言ってないんですね。そりゃ問題が発生したことに対してほいほい革新的なソリューションを提供できれば楽でしょうねえ。本当にゲーム業界の人達は努力不足ですねえ。ガラパゴスですねえ(関係ない)。マジコンが無くなればまた昔のようにゲームソフトが売れるようになる空気ビンビンですよねえ。僕はそんな空気出してるゲーム業界人一人も知りませんけどね。


 難癖つけてばっかなのもアレなんで、自分のマジコンに対する考えを述べると、マジコンがこれだけ問題視される背景には二つの革新があったと考えます。一つは、DSという世界中でバカ売れするゲームハードが誕生したこと、もう一つは、だれにでも簡単にコピー出来てしまうマジコンが登場したことです。篠原氏は問題に対する革新的な解決っていうか解決すら吹っ飛ばすゲームを求めてるのか?いやそんなにゲームが魅力的になったらコピーする人だって増えるだろうし…ってまあ突っ込みどころだらけなのでその辺はいいとして、篠原氏は言ってることの順番が逆なんです。革新的なことが起きたからこそ今まで誰も遭遇した事ないような問題も同時に発生するんですよ。この二つの大きな出来事が起こることでどんな問題が発生したのか。


 DSのバカ売れとマジコンの普及によって、違法コピーで遊ぶユーザーのかつて無い低年齢化が進んでいるじゃないかと僕は思うんですよ。ワイドショーでマジコン取材してるわけじゃないのに、マジコン刺してDSで遊ぶ子供が映っちゃったり、伊集院光がラジオでDSで遊んでる子供に話かけたらけっこうな数の子供がマジコン使ってたなんていう話してたのを聴くと、違法コピー問題はかつて無かった局面に入ってるよなって思います。


 昔PCのエミュで昔のゲームROMを大量に集めている奴ってのは大抵集めることが目的化しててほとんど自分では遊んではいなかった。そういう人達を見てると確かに違法ダウンロードが出来なくなればソフトが売れるってわけでもないとは思う。でも今進行している問題は、生まれてすぐにタダでゲームを遊ぶ習慣を身につけてしまったユーザーの大量発生ということなんじゃないかと思うわけです。そのような習慣を身につけてしまったユーザーは、けっして大人になっても複製可能な電子データのソフトにお金を落とすという習慣を身につけないのではないでしょうか。そしてまた自分の子供にも違法にコピーすることが、賢いやり方だと伝えるのではないでしょうか。なるほど物質的な損が発生しない単なるデータのやりとりには、いくら違法だとしても罪の意識だって芽生えにくい。


 篠原氏は物質的な損が発生しない電子データのやりとりと物質的な損が発生するやりとり(万引きなど)は違うという。確かにその通りだと僕も思う。電子データのやりとりは、物質的な損が生じないからこそ気軽に行えるし、罪の意識だって持ち辛い、だからこそ簡単に習慣化しやすくなる。それは非常に危険なことだ。特に善悪の判断もまだまともに出来ない子供にとっては。


 もしこれからの若いゲームユーザー達が物質的な損の生じない電子データの違法なやり取りになんの抵抗もないユーザーだらけになったら、電子データにお金を落とすことになんの価値も見いだせなくなったのなら、間違いなくゲーム市場は滅びるだろう。そうなってしまった時に算出される被害額は数兆円で済むだろうか?それとも市場ごと無くなったんだから被害も何も無しか?めでたしめでたし。