世界の中心にいない者たちの物語

 この記事を読んで思ったことを自分なりに書く。


ゲームの主人公は、映画・舞台・文学作品に比べて奥行きがなく…/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム


 上の記事を読んで自分が思い出したのは、Call of Duty modern warfare2(以下MW2)のことだ。このゲームは、ジャンルで言うとFPS、簡単に言っちゃえば、画面がプレイヤーキャラクターの足と視界を操作し、目標をセンターに入れて撃つって行為をエヴァンゲリオンのシンジ君のように繰り返すゲームである。FPSというジャンルはそのゲームシステムがゆえに、上記の記事でも指摘されてるように、自分中心で世界が回っていくことが多いゲームジャンルではあるのだけれど、MW2に限っていえば、それは全く当てはまらないと僕は考える。


 このゲームは、基本的に上官や同僚の後を必死について行くことを求められるし、船に乗ればそのうち沈没し始めて脱出を余儀なくされるし(これはCoD4か)、常に目標地点に向かって速やかな行動が求められることになる。そしてこれはこのゲームの特徴でもあるのだが、目標地点に辿りついて、ステージクリアしたかと思った途端に、プレイヤーキャラクターがしばしば死ぬことになる。スパイとして潜入していたテロリストに殺されたり、核爆発に巻き込まれてみたり、ガソリンかけられて焼死したりする。これは、ゲームに失敗したからそのような罰が与えられてるのではない。ゲームをクリアした結果、言ってみればご褒美が与えられてしかるべき場面で、ゲーム中のプレイヤーキャラクターには、あまりにあっけない死が与えられる。


 これはどういうことかと言えば、MW2というゲームにおいて、プレイヤーはどこまでも、世界の中心ではなく、どこにでもいる単なる一兵士としてのふるまいしか許されていないということなのではないかと僕は思う。MW2においてプレイヤーが放り込まれる世界の容赦のなさというのは、まるで強制スクロールのゲームをプレイしているかのようだ。この点でもMW2はその他FPSとは違う地平に立っていると言って良いと思う。世界は自分のペースでは進んでくれない。プレイヤーに許されているのは、世界の中心、目標をセンターに入れて撃つことだけである。だからこそ、このゲームの物語は、ゲームでしか物語ることは出来なかったし、最後まで目標をセンターに入れて撃つという行為、動詞で物語を貫いたからこそ、このゲームの完成度はかつてない高みにまで達したのではないだろうか。


 そう、このゲームのスゴいところは、最後の最後までFPSの基本動作とも言える目標をセンターに入れて撃つことに徹したところにある。スーマーマリオブラザーズが偉大なのは、最初から最後まで基本動作のジャンプでクリアできるところだ。最後の最後でクッパを突如どっかからか剣をとりだして一刀両断にしたら、映像的には盛り上がるかもしれないけれども、ゲーム的には興ざめもいいところだろう。どれだけ視覚的に盛り上げたとしても、自分の指先に染み付いた技能はそんなことでは盛り上がらないのである。


 ちょっと話は逸れるのだけれど、その点ゴッドオブウォーの一作目と二作目にて最後の最後で自分が使いなれていない剣で戦うことになってしまうのは、個人的にはちょっと残念だった。どうせなら最後のボスはクレイトスさんのメインウェポンであるブレイズ・オブ・カオス/アテナで行きたいじゃないですか。まあそれでもゴッドオブウォーシリーズが傑作であるということに揺るぎはないのだけれど。あとCSアタックを多用し過ぎるのも問題ですよね。あれも今まで培った技能とは別の技能が必要なわけで、指先の整合性というか連続性みたいなものが低まると思う。その点ゼルダの伝説トワイライトプリンセスで最後の最後に繰り出す「とどめ」は良かったですね。リンクが序盤で習う「とどめ」をあの場面で使うかっていう。ってか技の名前が「とどめ」ってどうなの?って最初思ってたんですが、「とどめ」ってのは「アイツにとどめを刺すための技」だから「とどめ」だったんですねって納得できたし、最後だから演出も専用の演出が出来るしで、技能を最後まで放棄しないという点でもCSアタック的なものの完成形という意味でも僕の中では評価高いです。


 ちょっと脱線が過ぎたので話をMW2に戻そう。このゲームのプレイヤーが操作することになるキャラクターは、世界の中心的な存在などでは全くない、主人公がゲーム中でその命を奪うことになる兵隊達と変わらないくらいの命の軽さくらいしか持っていない、普通の存在である。そしてそんな普通の存在を操作するプレイヤーに出来ることは、目標をセンターに入れて撃つこと、それだけだ。最後まで、自分の世界の中心を撃つことしか出来ない主人公が最後に見る景色は、最後に目標を定めるターゲットは何か?それは、ネタバレになるのでここには書かない。プレイしていない人は是非ともプレイして確かめて欲しい。出来ることなら、MW2の前作にあたるCall of Duty4からプレイして欲しいと思う。このゲームには、TVゲームというメディア、FPSというジャンルに対する深い洞察と理解、そして高潔なまでの意志がある。そこに僕は最大級の賛辞を贈りたい。