「手首」をコントローラーの入力器官として取り入れたスプラトゥーンのカメラ操作

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力

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ファミコンゲームコントローラーは主に左右の親指で操作するコントローラーだった。高橋名人は親指じゃなくて確か中指で16連射してたようにも思うが、大体、両手の親指でコントローラーをホールドする形で操作していたと思う。


ファミコンの次に発売されたスーパーファミコンのコントローラーもまたかなり重要なコントローラーだろう。LRボタンというトリガー式のボタンが搭載されていたからだ。このボタンの発明によって、両親指に加えて両手の人差し指(場合によっては中指)もゲーム操作に無理なく使えるようになった。スーパーファミコンで最も売れたタイトル『スーパーマリオカート』はアクセルとブレーキが必須の操作になることで、親指の操作が一杯にならざるを得ないレースゲームに、アクセルでもなければブレーキでもないミニジャンプというありえないアクションを加えることで、平面を走るレースゲームを、ジャンプドリフトアクションに再構築することに成功した。


マウスとキーボードの操作が主流だったFPSが家庭用ゲーム機でもヒットするようになる上でもLRトリガーの果たした役割は大きいだろう。なにより引き金を引いて銃を撃つという動作とトリガーボタンという入力方法の相性は抜群だ。


次にくるコントローラの革新と言えばまあ64における3Dスティックの導入が挙げられるだろう。確かに3Dスティックが無ければ、現在の3Dゲームを遊ぶことなど考えられないことを考えれば、重要な発明だったのは間違いない。しかし、LRトリガーが今までゲームに使用していなかった人差し指を使えるようにしたような意味での、入力器官的な側面での革新性はあまりなかったようにも思う。モンハン持ちなんていう本当に変わった操作方法で本当に巧みにゲームする人がかなりいた時期もあったけど。


次に来るのはニンテンドーDSのタッチパネル、WiiリモコンWiifitのバランスボード、XBOX360キネクトなど、ゲームに使用できる身体器官が爆発的に拡大する時代である。この時期について語ってると本当に長くなるので、詳細は省くが、身体とゲームの関係を色んな角度から見直す時期が来ていたってことなんだと今は思う。


Wiiの次に発売されたWiiUというハードで発売された『スプラトゥーン』がプレイヤーの「手首」をかなり自然な形でゲーム操作に取り入れられたことは、ゲームのコントローラーと対応する入力器官の歴史を振り返るに、中々に画期的なことなんじゃないかと僕は思っている。


『スプラトゥーン』におけるカメラ操作のどこが優れているかと言えば、スティックで左右、ジャイロで上下(&微調整)というカメラ操作の分解をしているところだ。一応左右方向の入力もジャイロで受け付けるようにはなっているが、スティックとの分業を前提としてチューニングされていることは間違いない。両手でホールドする形でゲームパッドを持った時、「手首」は上下の移動には適しているが、左右の移動には適していないからだ。腕全体を使ってしまっては、操作する上での身体的負担が大きい。でから左右方向をスティックで、上下方向を手首を駆使したジャイロセンサーでという操作系の分業態勢が導き出される。公式ツイッターも推奨してるね、やっぱ間違いなかったんだ。


ジャイロを取り入れたばかりの時期はどうしても腕全体、身体全体を駆使した操作体系にしてしまうし、それはそれで直観的、体感的な面白さは表現できるだろう。だが、それでは何時間もぶっ通しでやるゲームにはなれない。


『スプラトゥーン』の操作にはジャイロ操作に新鮮さを感じなくなった後の視線、言ってしまえばジャイロという技術が枯れた後の、良さと悪さを把握した上での批評的な視線を感じる。


そもそも3Dゲームにおけるカメラ操作とはそれ単体ではゲーム的快感を生み出すことが難しい割に常に操作し続ける必要にもせまられるという燃費の悪い操作である。コントローラーを操作する上で、最も重要な働きをしてくれる「親指」をカメラ操作に持っていかれてしまうのはゲームにおける操作の快感を演出する上でも非常に勿体ない。その問題に現状最も優れた解答を出しているのは、視線の移動がそのまま目標を「狙う」という行為と一体化しているシューター系のジャンルなのだろう。


「手首」の動きをゲーム操作に取り入れることで、『スプラトゥーン』はより直観的かつプレイヤーの身体に即した操作系を備えたゲームになった。部分的ではあるが、「親指」をカメラ操作から解放することで、インクを撃ちながらジャンプしつつ視線を移動するという複雑な操作も同時に行えるようになった。入力器官の増加によってキャラクターがより多彩な機能を同時に発揮できるようになったとも言えるだろう。「親指」が解放されることでボタンをリズミカルにプッシュできる操作の快楽が復活したとも言えるかもしれない。


『スプラトゥーン』のカメラ操作に対するアプローチは非常に地道だし地味だ。しかし、一昔前なら大袈裟に活用していることをアピールしていた(初期のWiiリモコン対応ゲームとかね)直観的な操作方法を地味に、だが非常に地に足を着けた形で洗練させているのが素晴らしい。そこに『ドンキーコング』で発明したジャンプというアクションを磨きあげることで、『スーパーマリオブラザーズ』という到達点にまで達する任天堂の変わらない姿勢を感じるのである。



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