ゼルダの伝説BotWと洋ゲー壁登りゲームを比較する

ゼルダの伝説 BotW の何が新しくて何が新しくないか
基本的にはこれまでの各種オープンワールドゲームを良く研究したうえで良..

上のエントリで結構自分の言いたいことは結構言われてしまっているし、自分でも既に一つ前のエントリで言及してしまっているのだけど、やっぱりすごいものはすごいので再度書いておこう。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は「崖」であると。


なぜここまで今作が崖登りのゲームになってしまったのかと言えば、まずそれはほとんどの「壁面」を「登れるもの」として定義し直してしまっているということに尽きる。各所に点在する祠の内部の壁は明確に登れない壁としているがそれ以外のほとんどの壁は雨で濡れたりしない限りはほぼ登れてしまう。


海外のゲーム、いわゆる洋ゲーにも壁が登れるタイプのゲームは少なくない。例えば何時でも何処でも壁が登れるオープンワールドゲームの代表的な存在としては『アサシンクリード』シリーズがある。



アサシンクリード2 サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を登る。


オープンワールドではないけど、『アンチャーテッド』や『トゥームレイダー』もよく壁に登りがちなゲームとして挙げられるだろう。



これが崖ハーケン!fox姉さんアンチャーテッド4#12−2謎にせまりたい!


#5 トゥームレイダー 実況 「ピッケル」


あげた動画をみるとわかるのだけど、これら3つのタイトルはどれも両手両足を駆使しての壁登りアクションが可能なゲームであるが、壁や崖であればどこでも無制限に登れるというわけではない。あくまで、壁登りが可能な限定されたアクセスポイントにアクセスすることで壁登りが可能になっている。


ちなみにこの仕組みは過去の3D以降のゼルダの伝説シリーズにおいても採用されている。例として挙げたタイトルはどれもAAAクラスのビッグタイトルであることからも、限定されたアクセスポイントにアクセスすることで壁を登れるというアプローチは、王道のやり方とも言えるだろう。


中でも『アサシンクリード』が傑出していたのは、アクセスポイントを無数に用意することでプレイヤーがアクセスポイントを探すまでもなく、フィールドのそこら中からアクセスが可能になっているからだ。


アサシンクリード』は壁に登れるアクセスポイントの「量」によって自由度を高めた。『ゼルダの伝説 BotW』は「壁」自体の「概念」を「登れるもの」に変えた。両者にはこのような違いがある。少なくとも「壁」に対して登るという行為の間口の広さにおいては『ゼルダの伝説 BotW』は『アサシンクリード』シリーズすら凌ぐ現状最高峰の自由度を持った一本になったと言えるだろう。


というわけで今回のゼルダ洋ゲーすら圧倒する最強の自由度を持った至高の一本になったのかと言えばまあそういうわけでもない。というか自由度の高さという指標はそのままゲームの面白さに結びつくわけではない。


確かにあらゆる「壁」に登るというアプローチを仕掛けられるゼルダの伝説の自由度の高さは凄まじいが、実際に壁登りを始めた瞬間に、一気に自由度は制限されることになる。既に挙げた3つの洋ゲータイトルはどれもどれだけ崖の登ろうとも途中で力が尽きるということはないので、自分の好きなように登ったり降りたり出来るのに対して、『ゼルダの伝説 BotW』ではがんばりメーターというスタミナに該当するであろうパラメーターの存在によって、自由度がかなり大きく制限されるからだ。だからこのゲームでは登りきれると思った頂上付近で頑張りメーターがつきて敢えなく滑落、みたいな事態が頻発することになる。


上に挙げた3作が(トゥームレイダーはシリーズによっては採用してるかもだけど)背景に制限を加えてプレイヤーの身体には制限を加えないという手法を取っているのに対して、『ゼルダの伝説 BotW』は背景に全く制限をかけず、身体の方に制限を加えるという手法を取っている。つまり両者は同じ「登る」という行為をゲームの主軸に据えながら、アプローチの方法は真逆になっているのである。


そして、ここからが重要なのだが、アプローチが違うということは、そこから出力される「面白さ」の質も当然違いが生まれる。『ゼルダの伝説 BotW』の崖登りには「ペース配分」やがんばりメーターを回復する薬を確保、アタックする崖に対しての自分なりのルートの設計などの「事前準備」が重要で、だからこそ目標の頂上に到達した時の達成感も大きい。『アサシンクリード』の壁登りはとりあえず登れる部分はサクサク登ってしまえるので、登る前の準備などしなくてもいいから達成感には欠けるかもしれないがそれは裏を返せば何時でも何処でも好きなように登り降り出来るという気楽さがあるということでもあるし、移動速度が地面の移動と比べてそこまで変動しないのも快適さを生んでいる。『アンチャーテッド』や『トゥームレイダー』は壁登りの自由度こそかなり制限されるものの、定められたルートをとにかく丁寧にデザインし、濃密な演出を加えることでリニアなゲームならでは「面白さ」を構築している。なかでも『アンチャーテッド2』冒頭の、事故を起こした電車からの脱出シークエンスなどはリニアなゲームだからこそ演出に満ち満ちており、一本道ゲームの一つの到達点になっていたと思う。


なんでわざわざ今回のゼルダと他のタイトルをタイトル名出してまで比較したのかと言えば、タイトルごとの「優劣」を付けたいからなのではなく、タイトルごとに達成している面白さの「質の違い」をハッキリさせたかったからだ。自由度が高いということはそのままゲームのクオリティの高さには結びつかないし、一本道であるということがゲームにとって「悪い事」というわけでもない。そして「登る」という行為が既に過去のゲームであったことなのだとしても、全く別のやり方で「登る」という行為をゲームとしてデザインし、全く別の面白さを達成する可能性があるということを言っておきたかったからなのである。


togetter.com


このまとめの反応とか見てるといろいろ不安になってくるのは、いわゆる洋ゲーに詳しい人ほど、実は今回のゼルダのやってることの真価に気付いてないんじゃないの?って疑惑が沸いてくるからだ。既に述べたように「登る」という行為が別のゲームでやられているということは、全く同じ面白さが繰り返されているということを意味しない。確かに『ゼルダの伝説 BotW』は既にあるオープンワールドをかなり研究していることは間違いないが、まあでも上のエントリ書いてるようなある程度オープンワールド任天堂のゲームも両方やってる人はだいたい崖のヤバさに気付いてるっぽいのでまあ安心かなとも思ってる。よく面白過ぎる作品に対して「概念を変えた」とか「次元が違う」みたいな表現の仕方をするんだけど、それはあくまで「超面白い」の言い換えでしかないのだけど、今回のゼルダにおいては壁の概念が洋ゲーの主流派壁登りゲームと比較において一新されているということは、別に大袈裟な物言いでもなんでもない、単なる仕様レベルの事実である。


んで、『ゼルダのBotW』は確かにどこでも登れるという自由度を確保したが、それは既に過去作でやられてたみたいなことを言う人が必ず現れるんだけど、どんだけ自由度を確保したとしてもそれが最終的な「面白さ」に結びついてなければあまり高い評価は出来ないと思う。すでに上のエントリでも言及されてる『ジャストコーズ3』とか挙がりがちだけど、自分としては他の人からはまず挙がらないだろうし、『インファマス セカンドサン』を挙げておこう。



inFAMOUS Second Son neon dash to car launch glitch


このタイトル、決して駄目なタイトルという訳ではないし、ネオンダッシュのビルの壁を一気に走破できる爽快感は確かにいい。なにより『ゼルダの伝説 BotW』よりも前に壁を自在に登れる自由度を実現してるんだけど、それ以上の面白さには繋げきれてない部分がある。主人公に高過ぎる能力を与えた弊害というか。だったら前作の『インファマス2』の方が自由と抑制のバランスがとれてて自分としては好みだったりする。おそらくオープンワールドゲームにおいて、自由度を確保することと同じくらいに重要なのは、プレイヤーに違和感や不自由感を与えない形で「束縛」を加えることなのではないかと僕は考えている。世界で最もヒットしているオープンワールドタイトル『Grand Theft Auto』シリーズが一部特殊なアクションを使えるようになっているとはいえ、基本的には普通の人間を主人公に据え続けているということは中々に示唆に富んでいる事実なのではないだろうか。


ゼルダの伝説 BotW』には崖登りという要素に絞り込んだとしても三点の評価ポイントがある。一つは壁をほぼ無制限に登れるようにしたという挑戦的にもほどがある基本設計。二つ目はその高い間口の自由度を確保した上で、そこで終わらない深さと奥行きを伴った「面白さの仕組み」の構築。三つ目はそれら挑戦的な試みに対して必ず付随するであろう大量の不具合、バグをかなり高いレベルで抑え込んでいる製品としての安定性だ。


今作は「崖登り」という一つの要素に絞ったとしても色んな角度から評価することが可能なとんでもないタイトルだと思う。上に挙げた3つの評価ポイントの内、2点を満たすタイトルはそれなりにあるのだけど、3点どれもとなるとかなり少なくなる。『アサシンクリード』だって一作目からフリーランの仕組みこそ完成されていたものの、メインミッションの単調さはなかなかひどいものだった。まだプレイしていない人はよっぽどストーリーを気にする人以外は2作目からやるべきだろう。だけど今挙げた評価するポイントが共有出来ない、そもそも理解出来ない人にとってはおそらくゼルダは既に存在する要素ばかりなのに持ち上げられ過ぎているタイトルに映ったりもするのだろう。


こんだけ崖がヤバい連呼してると崖が楽しめない人はゼルダ楽しめないのかとも思われそうだけど、道なりのルートを選べば選んだで、行商人との交流とかいろいろ崖では味わえない面白さが確保してあるから大丈夫ですよ。崖が面白いんだけど、崖を完全無視しても面白いのが今回のゼルダです。


あと最後に、『ゼルダの伝説 BotW』が今後海外のオープンワールドにどういう影響を与えるのかについてはまだわからない部分が多い。でも今作をやりこんで崖登りまくって完全に「崖があったら登りたい脳」になってしまった人が、今後洋ゲーオープンワールドで良い崖を見た時にどう思うのかは簡単に想像することが出来る。


ゼルダの伝説 BotW』はそういう世界を見る目を変えてしまう可能性を孕んだヤバいタイトルなのだ。


一番その辺の余波が直撃するのはRDR2だろうね…。正直、マイベストオープンワールドがRDRだし、ゼルダを例外にすれば今年一番楽しみにしてるタイトルがRDR2なんで、すごく今ドキドキしてる。元々崖登るゲームじゃないし、無理にその要素入れなくてもいいんだけど、前作から「良い崖」満載のゲームだったんだこれが…。登りてえ…。