冨樫義博マンガの独特のドライヴ感について考える

 少年マンガにおいて、○○四天王とかナントカ何人衆みたいな、敵キャラクターが集団で登場する展開って、ベタでありがちだけど燃える展開だと思う。まあ王道っていうか。


 主人公側も大抵チームを組んで対抗することになるから主人公以外の脇役の活躍が描けるので、よくいわれる主人公補正から外れた勝負が描けるようになる。要は主人公側の負けを描きやすくなる。


 敵キャラクター側も集団で登場することで、様々なキャラクターを配置することが出来るようになる。狡っ辛い小悪党だったり、義理人情に厚いヤツだったり、負けた瞬間に四天王の名折れなんて言われちゃったり。


 敵キャラクターを集団で登場させることで、単なるバトルマンガが、様々な人間関係を描けるようになる。だからこれらのやり方は色々なマンガで重宝されることになる。


 冨樫義博はこの手法を誰よりも活用しながら時に逆手に取ることが上手な漫画家である。


 幽☆遊☆白書で六遊怪チームの是流がいきなり飛影にやられる場面は未だに良く覚えている。飛影が邪王炎殺黒龍波(しかしなんという厨二ネーミング)で瞬殺したヤツって言った方がわかりやすいかな?


 卑劣な小悪党みたいなキャラが瞬殺される時ってのはよくあるんだけど、この回が鮮烈だったのは、どう見ても弱くは見えないし、そんなに悪いヤツにも見えないし、戦った後に主人公側になびく展開だって充分にありそうなキャラクターが(実際六遊怪チームの2人はそうなってる)、あっけなく殺されてしまったところだ。


 本来だったらそれなりのページ数を割いてバトル描写されてバトル後の描写もしっかりされそうなキャラクターを有無を言わさずに瞬時に処分してしまう。ここに冨樫義博マンガ独特のドライヴ感が生まれる。


 HUNTER×HUNTERの陰獣なんてのもそんな可哀想なキャラクター達だった。幻影旅団に対抗する為に登場したどいつもこいつも曲者だらけの強キャラぞろいかと思いきや、幻影旅団のたった1人にボロボロにやられる始末、本当は十人いるらしいのに全員描写されないし。陰獣にかぎらずあの辺りの回は幻影旅団の圧倒的な強さと、それに対抗するためのクラピカの歪なまでに対幻影旅団用に特化した念能力を見せるために周辺のキャラクターが消費されまくってたんだけど。


 あそこに限らずHUNTER×HUNTERはキャラクターの消費の激しいマンガで、グリーンアイランド編でのゲンスルーが裏切ったチームのほぼ全員を爆殺した時とか、キメラアント編でカイトがあっさり死んじゃうところとか、ハンターでも実力最高峰の会長をサクッと投入してしまうところなんかが一々印象に残っている。


 現在のところのHUNTER×HUNTER最新の回である会長選挙編において冨樫マンガのドライヴ感は最高潮に達していたように思う。


 あの回がスゴかったのは、今まで強者ぞろいかと思われていたハンター協会を丸ごと消費する勢いで、どんどん多種多様なハンターを登場させつつ、同時にバトルを展開することで、あっけなく死んでいくハンターが続出し、且つ十二支んっていうハンター協会トップクラスのハンター集団を登場させながら、それらのキャラクターには一切バトルをさせなかったところだと自分は考える。


 十二支んは全員登場はしたのだけど、するのは主に選挙活動ばかりで、要は頭脳戦がメインなんだけど、それに関してはパリストンとジン以外は全員役立たずと言っていいくらい活躍の目が無かった。せっかく登場させた強キャラ集団なのにいきなり上位2名以外は容赦なく切り捨ててしまう。


 でもそれはあくまで選挙っていう特殊な状況下での活躍の有無なんで、今後あるであろうバトルでは誰も能力の内容すらほとんど見せずに、選挙の最後まで走り切ってしまった。ある面においてはキャラクターをこれでもかと消費しつつ、ある面では温存もしている。呆れるほどに見事な展開だった。


 これまで述べて来たが、冨樫義博マンガ独特のドライヴ感の秘訣はキャラクター、及びキャラクター集団の容赦のない消費ぶりにあると自分が考えている。この今のところは冨樫義博ならではの手法が、もうちょっと他のジャンプマンガにも波及しないかなと考えていたりするんだけど、難しいんだよね。


 だって薄っぺらいキャラクターを瞬殺したとしてもそれはよくある展開でしかなくて、普通は単行本一冊くらいかけてじっくり描写してしかるべき厚みを備えたキャラクターを、2ページくらいで消費しちゃうわけだから。もったいないでしょそれは。


 なんだかんだでやっぱりHUNTER×HUNTERの続きが楽しみですねということでおしまい。