たったひとつの冴えたやりかたの無くなった業界

 かつてのゲーム業界はまだ、とりあえずこれやっとば大丈夫っていう方法があったような気がする。


 それは、例えば有名な漫画やアニメをゲーム化するであるとか、バカ売れしたタイトルの二番煎じ三番煎じを狙うだとか、グラフィックを美麗にするだとか、今まで見た事のない新しいシステムを提案するだとか、広告に力を注ぐだとか、駄目な部分が多々あるタイトルだったとしても、どっか一点突き抜けた売りがあればヒットさせることは難しくなかったのではないか。


 たったひとつの冴えたやりかた、それを見いだすことがかつてのゲーム業界では最も大事なことだったのではないかと今では思う。


 現在のゲーム業界にたったひとつの冴えたやりかたは存在するだろうか。おそらくそんなものはもう無いと僕は考える。


 新しいゲームのアイディアが尽きたとかもうゲーム業界自体が駄目だってことが言いたいわけではない。現在のゲーム業界でヒットを生むために必要なことは、一点でも突き抜けたポイントを作ることなのではなく、一点たりとも隙を作らないでプロダクトを送り出す事ではないかと思うのだ。


 ゲームの根幹を成すシステム、ボリューム、物語、登場するキャラクター、及びその声等を担当するキャスティング、ユーザーを無駄に戸惑わせないインターフェースや、ゲーム冒頭のスムーズな導入方法、そして的確な市場調査と訴求したユーザーへ向けての的確なプロモーション、その後のシリーズ展開。すべてにソツが無いように、慎重に慎重にプロダクトを送り出さないと成功することが難しくなっているのではないか。


 すべてにソツが無いと言っても、突き抜けた売りが無いという訳でもなく、他のタイトルと比較して突き抜けた部分を持ちつつ、さらに脇をがっちり固める必要があるように思う。


 「脳トレ」がかつてあれほど成功した要因も、結局のところ全てにおいてソツが無かったからだ。人によっては、脳ブームに上手いこと乗っかったからだとか、ハードの特性を上手く使いこなせてたからだとか、プロモーションが的確だったからだとか、値段が2800円と格安だったからだとか色々な見解があるとだろうし、それら全てが間違いではないと思う。というか、それだけの要因が折り重なったからこそ、「脳トレ」はあれだけのビッグヒットになったのだろう。


 最近レベルファイブのパブリッシャーとしての成功ぶりについてよく考えるのだけど、レベルファイブがあれだけ成功したのは、プロダクトを送り出す際に、「たったひとつの冴えたやりかた」に頼るのではなく、必要な要素を全てソツなく高いレベルでこなしていたからではないかと思うのだ。


 なかでも、レイトン教授イナズマイレブンは、対象となる客層を明確に見据えた上で、的確な内容、的確なキャスティング、的確なプロモーションと、全てがストライクだったように僕には見える。


 逆に昨今の国内サードがイマイチ元気が無いのは、やっぱりかつてのゲーム業界の「たったひとつの冴えたやりかた」があれば突破できてしまうっていう成功体験に縛られてるからじゃないかなーと思うんだよなー。部分部分で成功してるタイトルとかはあるけど…。


 んで、任天堂が現在一人勝ち状態なのは、任天堂だけはプロダクトを送り出す上で、昔から全てにおいて手を抜いてない会社だったからですね。プロモーションは昔はそこまで力を入れてなかったけど、今ではすっかりプロモーションも上手になっちゃって完全に隙無しですな。