ドラクエ3にジパング(日本)がある理由


 ドラゴンクエスト(以下ドラクエ)のモンスターにはひらがなが多用されていると以前のエントリで述べてきたわけだが、ドラクエのモンスター名には所謂コテコテに和風の名前というのが無い。ひらがなを多用するならもっと日本の妖怪の名前とか使用した方が楽だとは思うんだけれども、「ひとつめピエロ」、「どぐうせんし」、「おにこぞう」など、ひとつめこぞう、どぐう、おに、っていう和風な素材をそのまんまは使用せずに、アレンジを加えて和風っぽさを極力出さないようにしている。


 しかし、そんな中シリーズ通してたった一体だけ、例外的に思いっきり和風な名前のモンスターが存在する。それはやまたのおろちだ。


 「やまたのおろち」が登場するのはドラクエ3のジパング、要は思いっきり日本を意識して、アレンジしたエピソードなわけだけれども、このエピソードには、他にも様々なドラクエにおける例外的な要素が存在する。

伝説的なアイテムの借用

 ドラゴンクエストというゲームは、基本的に外から物語や神話みたいなものを借りてこない。これはどういうことかと言うと、エクスカリバーとかラグナロクっていうファイナルファンタジー(以下FF)によく登場する武器の名前は、FFオリジナルの武器なのではなく、北欧神話だったり他の神話から拝借するような形で、ゲーム中に登場させているわけなのだけれど、ドラゴンクエストというゲームはそういうことを基本的にしていないのである。


 「おうごんのつめ」というアイテムだってもっとファラオのなんちゃら〜みたいにもっと、古代エジプトとかの歴史と絡めたネーミングが出来そうなのに、それをせず、ひらがなで抽象的な名前をつけている。この辺がドラクエドラクエたらしめている理由の一つでもあるのだろう。


 しかし、そんなドラクエにも例外的に外から借りてきた伝説上のアイテムがいくつか登場する。一つは、「せかいじゅのは」だ。でもせかいじゅ関係の話はここではあまり関係がないので、今回は脇に置いておきます。問題はもう一つのアイテム「くさなぎのけん」についてである。


 さっきの外から借りてた神話的なアイテムの不在って話と、「くさなぎのけん」の存在って思いっきり矛盾してるわけです。なんせ我らが日本の三種の神器の一つですからね。思いっきりドラクエも外の世界の神話から拝借しとるやんけと。


 しかし、この「くさなぎのけん」が獲得できる場所こそ、さきほど述べた例外中の例外モンスター「やまたのおろち」が登場するのと同じジパングにおいてなのだ。ジパングには、ドラクエシリーズ通しても珍しい例外が頻発しているのである。

なぜジパング

 他にもジパングにはヒミコっていう思いっきり日本の歴史上の人物がアレンジ抜きで登場していたり、かなりドラクエ3の中でも浮いたエピソードなのだが、なぜ、ジパングにはこのような例外が頻発しているのだろう?


 子供の頃に自分がドラクエ3をやっていた時は、単なる変化球の一つだと思っていた。散々西洋風の世界を渡りあるってきたんだから、一個ぐらい思いっきり異質なエピソードがあっていいだろうと。まあいわゆる箸休め的なエピソードというか。


 これはこれで間違った考え方でもないように思う。ジパングってストーリーのちょうど中盤をちょっと過ぎたくらい、後半の盛り上がりへのステップみたいな所で登場するから、この辺でこういう変り種を仕込むのはなかなか効果的だとも思うのである。


 でも、皆も知っていると思うが、ジパングにまつわるエピソードはそれだけでは終わらないのだ。単なる箸休めエピソードとしては捉えられないくらいに、ジパングドラクエという物語に密接に絡んでくるのである。アレフガルドの地で。

おうじゃのけん=日本刀説

 ジパングを巡るエピソードは、ジパングだけでは終わらない。ギアガの大穴を落下し、主人公達が降り立ったアレフガルドの地で、ジパングの住人と遭遇することになる。
その際にジパング出身の人物は、鍛冶屋を営んでおり、主人公達に、最強の武器「おうじゃのけん」を作るという非常に重要な役割を担っているのである。


 その際に必要なアイテムが、ドラクエには例外と呼べる外の世界から借りてきた神話的アイテムオリハルコンなのだ。
またまた例外が登場してしまいました。


 このエピソードに接した子供の頃の自分は、「ジパング出身の人が作るってことは、おうじゃのけん(後のロトのつるぎ)って日本刀じゃん!かっこええ!!日本刀最強!!!」とか思っていた。こんなことを考えていたのは自分だけではないらしい。


http://blog.livedoor.jp/kinkuro1/tag/%A4%AA%A4%A6%A4%B8%A4%E3%A4%CE%A4%B1%A4%F3%BF%B7%C0%E2


 ↑この記事を読むと開発主要メンバーの中村光一自身がその説を提唱しているとか…。おお!やっぱりオイラは間違ってなかったんだね。日本刀最強なんだね。

今になって思うこと

 ジパングという変化球的なエピソードを物語に混ぜること、おうじゃのけんという最強の武器に、実は日本刀なのでは?という想像が膨らむ要素を加え、物語に厚みを持たせること、これらの考え方は基本的には間違ってないと今でも思う。


 でも今になって、それだけなのか?とも思うのだ。堀井雄二という本当に物語に精巧な仕掛けを張り巡らせる人物が、それだけのために、ここまで例外的な要素をジパングに連発させてしまったのかと思うのだ。シリーズ通しても珍しいほどの異質かつ例外的な要素がふんだんに盛り込まれたエピソードが意味することは、それだけなのかと。


 というわけで、ここで私は新たな解釈を付け加えようと思う。以下に展開するのは、30過ぎてから思う、私にとってのドラクエ論だ。

ドラクエ3にジパングがある理由

 ドラクエ3にジパングがある理由、それは堀井雄二がゲーム業界で歩んできた足跡をゲーム中に封じ込めるためではないだろうか。


 ゲーム中で堀井雄二の足跡に相当する人物、それはアレフガルドで登場する、ジパング出身の鍛冶屋だ。彼が生業にしていることは、素材を武器として加工し、主人公達に使ってもらうことだ。主人公達っていうのはもちろんユーザーである我々のことだ。


 彼は伝説的な素材、「オリハルコン」と出会うことで、最強の武器「おうじゃのけん」をつくることになる。ここでの「オリハルコン」とは何を象徴しているのか?それは、堀井雄二RPGを作らせるきっかけになったゲームタイトル、ウィザードリィウルティマである。そしてそこから作られる「おうじゃのけん」こそが、ドラゴンクエストそのものを象徴しているのだ。


 「くさなぎのけん」や「やまたのおろち」が存在する、ジパング(日本)というルーツを持つ彼が、「オリハルコン」という異国の伝説的素材と出会うことで、「おうじゃのけん」という最強の剣をつくり、我々ユーザーに託す。しかもこの一連のイベントで、鍛冶屋をしている彼は、「おうじゃのけん」をタダではくれないのだ。きっちり我々からお金を頂くという形で、ようやく彼は私たちに剣を提供してくれるのである。これはゲームを売る側、買う側の関係性になぞらえれば極めて自然なことだとわかる。

 

 ジパングを巡るエピソードに例外的な要素が頻発する理由、それは、ゲーム業界の外側からゲーム業界のど真ん中へと辿りついていく、ドラクエというまさしく伝説的なタイトルを作り上げていく、堀井雄二の足跡を表現するために必要な要素だったからなのだと私は思うのである。


 そして、物語の最後に、ギアガの大穴は閉じ、主人公達は元の世界には戻れず、ロト伝説は完成する。そして、鍛冶屋である彼も当然元の世界には戻れなくなっている。彼は今後も鍛冶屋を続けていくのだろう。それは、堀井雄二自身、今後もゲーム業界の内側で生きていくことになるだろうという決意を、ロト伝説の片隅でこっそり表明していたのではないかと、今になって思うのだ。


 妄想的に過ぎる解釈かもしれないが、一連のモンスター名を調べる過程で、ここまで精緻な工夫を凝らす人が、このような綻びを簡単に許すものなのか?と思案した結果がこのような結論に辿りついてしまって、自分自身驚いている。でもこれが自分が最も納得する、私のドラクエ論である。

参考

RPGの時代:野安の電子遊戯工房
私のドラクエに関する考察はここのサイトに大きくインスパイアされている。
この考察がなかったらここまで、自分がドラクエに真剣に向き合うことはなかったと思うので、興味がある方は是非。