ドSなゲーム、ドMなゲーム

 言わずと知れた大ヒットタイトル、「スーパーマリオブラザーズ」(以下マリオ)は、色んな特徴を持っているが、個人的に最も際立っているのは、「待つことのないゲームデザイン」だと思っている。ただひたすらに右へ右へと進むゲーム内容、Bダッシュという加速装置、このゲームはほぼプレイヤー側がゲームの時間的な主導権を握ることが出来るようにデザインされているのである。


 ボスキャラであるクッパですら、ただ駆け抜けてゴールに到達するだけで、倒すことが出来る。上手い人だったら、クッパが登場してから一秒もかからず倒してしまうのではないだろうか。だからといってクッパがボスキャラクターとして存在感の無い駄目なキャラクターかと言えばそんなことは無く、クッパの足元、もしくは頭上を飛び越え、ゴールに到達する刹那の時間には、剣の達人同士が切り結ぶような、映画「椿三十郎」のラストーシーンのような緊張感のある濃密な感覚を味わうことができる。やはりマリオのライバルと言えばクッパなのだ。


 このように宮本茂という人が作るゲームは基本的にプレイヤーに時間の主導権を握らせ、プレイヤーキャラクターがガンガンに動きまくって攻めまくって攻略することができる、言ってみれば「ドSなゲーム」が多い。「ピクミン」が30日という限られた時間の中で探検するゲームだったことを考えれば、「時間の主導権」というのは彼にとって非常に重要なキーワードであることがわかる。


 では逆に「ドMなゲーム」というのはどんなゲームなのだろうか?これはかなり多い。というかゲームの主流は「ドMなゲーム」にありと言ってもいいくらいだ。例えば、多くのアクションゲームのボスと戦う場合、こちらが一方的に攻めまくって攻略できるボスより、ボスの繰り出す攻撃を受けたりかわしたりして、その末に露わになったボスキャラの弱点部分を攻撃するゲームが多くありませんか?ボス戦だけで成り立っているゲーム「ワンダと巨像」も、まずボスの行動を観察し、そこから攻略の糸口をつかんで、最後にとどめを刺すという流れになってましたよね。このような、相手に主導権を与え、それを受けきった先に活路を見出すのが自分の考える、「ドMなゲーム」である。


 自分が、ドMゲームの代表として挙げたいのは、なんと言っても「弾幕系シューティング」だ。自分から弾を撃つのが肝のシューティングゲームなのに、相手からシューティングされてるのをかわしまくるのがゲームの核になっているんだからこれは「ドMなゲーム」の極北と呼んでしまっていいだろう。


 対する、「ドSなゲーム」の極北であるマリオですら、次第に受けに回るM的な要素が増えつつある。SFC版の「スーパーマリオワールド」の最後のクッパ戦などは、完全に相手の攻撃を受けた後に反撃する、M型のゲーム内容になっていた。雑魚戦や通常のコースはともかく、最後のボス戦までS型のプレイヤーに主導権を譲るゲームにするのは、至難の業なのだ。M型が作るの簡単って話でもないんだけれどね。詳細は後のエントリに書くけど、宮本茂が最強のS型ゲームクリエイターだとすると、彼の右腕的存在である、「どうぶつの森」などを手掛けた手塚卓志という人は、最強のM型クリエイターなのではないかと思っている。


 M型ゲームの特徴は作り手からのおもてなし感が強いということでもある。ボスの登場シーンを派手にしたい、色んな攻撃を繰り出してプレイヤーを楽しませたい、イベントシーンだって豪華にムービーとかを盛り込みたいなどなど。行き過ぎたおもてなしは、作り手の自己満足にも繋がるのだが、おもてなしの精神にあふれたドM型のゲームは熱いユーザーを獲得することも多々ある。というか所謂コアユーザーって呼ばれる人種はM型のユーザーが多いんじゃないかと個人的には思っている。


 S型のゲームは、FC時代などのシンプル極まりないゲームが大半の時代ならまだしも、大容量化した昨今では非常に希少な存在になっている。そんな中で、僕が考えるマリオにも通じるS魂を持ったゲームだなあと思うのが初代「バイオハザード」である。


 「バイオハザード」というゲームは、ビックリ箱と形容されるゲーム内容や、部屋を移動するごとに挟まるドアを開ける軽い演出を伴ったロード時間の長さなど、ユーザーに「待つ」ことや、受身になることを強いるM型のゲームなのではないかと思う人もいるかもしれない。それ自体間違っていることでもないと思う。しかし、このゲームは最大の売りでもある表層部分のM型の「サバイバルホラー」というゲーム内容を通過し、二週目、三週目と挑み始めた時、そのS型ゲームとしての本性をあらわすことになる。


 二週目三週目と遊んだ人ならわかると思うのだが、このゲームはほとんどの敵を無視し、スルーして進むことが出来る。要所要所で現れるボスも大火力の武器で瞬殺することが出来る。徹底してプレイヤー側が主導権を握れる、「ドSなゲーム」なのだ。そして、ゲームクリア時間が3時間を切ったときに獲得できるアイテムこそ、このゲームのS性の象徴ともいえる「ロケットランチャー」というラスボスすら一発で仕留めるとこができる最強の武器なのだ。


 このような希少なS型のゲームデザインを貫徹できた最大の理由は、「サバイバルホラー」というジャンルの発明にあると思う。アクションゲームとしては、物足りないような習熟者にとってのボス戦の歯ごたえの無さも、ホラーゲームなのだから、重要なのは、アクション性ではないという理由のもとに、ちょっと上手くなったプレイヤーが瞬殺できる程度の強さにしてしまえる。雑魚敵がスルーしてしまえるゲーム内容だって、目的は怖がらせることなんだから、戦うことが本義ではないという理由で肯定される。



 初代バイオハザードは、何度も繰り返しプレイすることで、そのS性をあらわしてくるし、逆にいえば優れたS型ゲームというのは繰り返しのプレイに耐えるということでもある。マリオやバイオハザードというゲームが未だに最短時間クリアが競われていたりするのは、これらのゲームがいかにプレイヤーに無駄な負担を強いず、快適なプレイをしてもらえるようにきちんとした設計がなされているかという証明でもあるのだ。(M型が適当に作られてるというわけではない。)


  そりゃ若大将だってハマるわけだよ!
X51.ORG : 加山雄三 バイオハザードを1時間43分08秒でクリア


 最後にまとめるとゲームというのは、表層部分のジャンルとはまた別の部分で繋がっている場合が多々あり、その中の一つの指標として、M型とS型のゲームというのを提示してみたが如何でしたでしょうか。バイオハザードというゲームはゼルダや、メトロイドのような探索型アクションとの類似性はけっこう指摘されているが、マリオともS型ゲームという点でけっこう近い地点にいると思うのである。(そういえばメトロイドも時間短縮を競うゲームでもあるね。)


 あと憶測レベルの話だけど、日本のライトユーザーは、軽いS型の嗜好を持ち、コアユーザーはドM。海外のFPSとかを好むユーザーは基本的にドSってのが、最近の自分の考え。