大変永らくおまんたせしましたーってことで、失敗列伝第三回は最早伝説と化しつつあるハード、バーチャルボーイでございます。
バーチャルボーイとは何か?
任天堂の輝かしい失敗の歴史の中でも一際輝く一等星とでも呼ぶべき存在、それがバーチャルボーイなわけですが、皆さんバーチャルボーイの名前くらいは聞いたことがありますでしょうか?聞いたことはあるけど、詳しくは知らないという人が多いと思うので、ウィキペディアからサクッとハード概要を引用しておきます。
バーチャルボーイ(VIRTUAL BOY)とは、任天堂が発売した3Dゲーム機。横井軍平が発案。 略称「VB」。その外見から「赤い眼鏡」とも呼称された。1995年7月21日発売、希望小売価格15,000円。全世界累計出荷台数は126万台。
バーチャルボーイ - Wikipedia
ということだそうです。他にも色々解説してあるんで、興味ある方は読んでみるといいと思います。このバーチャルボーイというハードは、発売前は、国内だけで年間300万台を売る予定ですなどと、任天堂の広報の人が述べていたり、売る気満々だったみたいなんですが、当時のプレイステーションや、セガサターンなどの次世代機戦争が激化する中では、あまり目立つこともなく、発売まもなくゲーム屋の片隅に追いやられ、何時の間にか姿を消してしましました。
何故、バーチャルボーイはここまで売れなかったのでしょうか?このハードを設計したのは、かの大天才、横井軍平氏なのです。近代TVゲームの父とも呼べる横井氏の力量をもってして商業的な成功に導けず、二番手、三番手ハードにすらなれず、驚くほど速やかにに市場から消えてしまったのは何故なのでしょうか。?今回はそのことを、自分なりに考察していきたいと思います。
まずはバーチャルボーイを体験してみたよ
とりあえず皆さん、バーチャルボーイってやったことありますか?実は俺、バーチャルボーイやったことありません。こんな人間ではあーだのこーだの偉そうに失敗について語る資格ないッスよね。
つーことで、
バーチャルボーイ買ったどー
買ってみてプレイしたのは、「テレロボクサー」、「ギャラクティックピンボール」、「レッドアラーム」の3本です。以下に自分なりのバーチャルボーイを体験した上での感想を述べます。
感動はいきなりやってくる
まず僕がバーチャルボーイをやってみて一番感動したのは、電源スイッチを入れて、ハードが立ち上がる瞬間です。まだ本体には顔を近づけていない状態で、スイッチを入れると、本体から音楽が鳴り始め、画面の奥の方に赤い絵が浮かび上がってきます。顔を画面に近づけて覗きこむと、おお!そこにはまさしく立体の世界が広がっているではありませんか!画面を覗きこむことで、自分が別の世界に接続されるような感覚が味わえる!これは従来のハードでは味わったことの無い感覚です。視覚を丸ごと別の世界に接続してしまうハード、それが、僕がバーチャルボーイに最初に抱いた印象でした。
暗い部屋でやると最高!
バーチャルボーイは基本的に赤黒の画面二色の画面です。真っ黒な背景の中に赤くキャラクターやオブジェクトが浮かびあがるような感じで、ゲーム画面を描画しています。横井軍平氏はこの黒い背景によって広大な空間をユーザーに感じさせることが可能になると目論んでいたようです。氏の発言を引用してみましょう。
バーチャルボーイの企画ができあがる前、ある会社がLEDディスプレイを売り込みに来たんですね。航空機の整備士が使うツールで、真っ暗闇の中に図面が表示されて、これを片方の目で覗き込む。同時に片方で現物を見るというものでした。
その時は、クリアに図面が描けているなというぐらいで、たいして興味がなかったんですね。後で、ひょっとしたら、真っ暗闇というのはモノになるんじゃないかと思いついて、バーチャルボーイの企画が始まったのです。
(中略)
真っ暗闇だったら、画面の枠を感じさせない。そこが今までの液晶とは違う点だったのですね。ですから、ソフトメーカーにも「画面の枠を描かずに、必要な線だけ描いてください。そしたらゲームフィールドがものすごく広く感じるんでよ」とよく言ってたんですよ。
「横井軍平ゲーム館」より
この黒い背景による無限遠の描写はかなり成功しているんじゃないかと僕は思いました。実際部屋を真っ暗にしてやるバーチャルボーイの没入感の深さたるや!でもこのバーチャルボーイ最大の長所とも呼べるこの要素は、同時にバーチャルボーイの最大の欠点でもあるように自分には思えたんですが、これについてはまた後で述べようと思います。
3つのソフトについての簡単な解説
テレロボクサー
主観視点で行うボクシングゲーム、FPSって呼ぼうと思えば呼べるんかな?ゲーム内容は一言で言えば「マイクタイソンパンチアウト」。手が宙に浮いて存在し、複雑さを伴う関節の動きを省略しつつオーバーアクションをし易くしてる部分が「ジョイメカファイト」っぽくもあります。最近のソフトで言うと「WiiSports」のボクシングが一番近いんじゃないかと思います。
ギャラクティックピンボール
オーソドックスなピンボールゲーム。あんまり僕はピンボールゲームには造詣が深くないんだけれど、やってると普通に面白いのはさすがは任天堂謹製のタイトルといったところです。。とりあえず、友人にバーチャルボーイで遊ばせるときにはとりあえずことタイトルで、立体感を感じてもらうことにしています。でもあんまり長くやらせてると、「これって立体の意味あんまないような…」みたいなリアクションを貰ったりも…。
レッドアラーム
今回プレイした三本の中では、最もバーチャルボーイというハードの可能性の片鱗を感じられるソフトでした。ワイヤーフレームのビジュアルもイカしてます。まあでも制作はT&Eソフトですんで、スターフォックス64みたいな完成度を期待してたら肩すかしではあります。
バーチャルボーイ初体験を終えて
そんな感じでバーチャルボーイ初体験を終えたわけですが、実際に触ることで、このハードがなぜ失敗に終わったのか、このハードの問題点はどの辺にあったのかが、自分の中でより明確になりました。ということで、以下に自分が以前から思っていた、体験することで見えてきたバーチャルボーイの問題点を述べたいと思います。自分が考えるバーチャルボーイの問題点は大きく2つあります。
問題点その一 パーソナル過ぎるコンピュータ
バーチャルボーイを友人にやらせてみたときにつくづく思ったんですが、このハード、とても他人との共有体験がし辛い、あまりにパーソナルすぎるコンピュータなんですよ。
なんせモニターを覗けるのはプレイしてる人だけなんで、プレイ中に友人にアドバイスとかしようが無いし、どの辺でミスったかもわからないから、正直場が全く盛り上がりません。というか友人、知人が集った場所で独りバーチャルボーイをやる様はあまりに異様な光景過ぎるんです(その異様なプレイスタイルが面白いんで最初だけ盛り上がるってのはあるんだけど)。
さっき暗い場所でやると没入感が最高!って言ってたのには偽りはないんだけれども、同時に思うのが、このバーチャルボーイをプレイしてる姿、知らない人に見られたら相当やべえってことでして、暗い部屋で独りうっすら赤い光を放つ機械に目を近づけてひたすらカタカタコントローラを弄ってる姿って、自分でも想像するだに恐ろしいことになってるじゃないかと思います。
バーチャルボーイというハードが失敗した要因の一つ目として、僕は、この他者とのコミュニケーションを遮断してしまうハード設計というのを挙げたいと思います。その後発売されたポケットモンスターというタイトルが、通信ケーブルを介したモンスターの交換という、ユーザー間のコミュニケーション性の高さをウリに大ヒットし、当時死に体だったゲームボーイというハードごと復活させてしまったのはあまりに対照的だしあまりに皮肉な結果としかいいようが無いと思います。
バーチャルボーイにも一応ハード間を繋いで遊べるような仕組みはありました。しかし、そういった仕組みを加えてもバーチャルボーイというハードは、ゲームを眺めるギャラリーというものの存在を許さないハードになってしまっているのです。
ゲームというものは、プレイするだけではなく、他人がプレイする様を眺めているだけでもそれはそれで楽しいものだということは、動画共有サイトに無数のゲームプレイ動画がアップされ決して少なくない反響を呼んでいる現在では、最早説明不要の常識になりつつあります。バーチャルボーイというハードは視覚的な革新性を追及するあまり、ゲームをとりまく環境の面ではある種退化したハードだったのではないかと、僕は考えます。
問題点その二 インターフェース面での保守性
良くも悪くもモニター部分のあまりの独自性に比べると、インターフェースの面では、バーチャルボーイは保守的な印象を受けます。もっともこれはあくまで2009年に生きる僕の視点で見たからであって、当時最先端の、グリップ型のコントローラをいち早く採用していますし、しかもこのグリップがすごく握り易い!そして左右両方に十字キーを配しているのですが、これも現在のアナログスティックを左右に配置するスタンダードな(クラシックな)コントローラを先取る形になっており、1995年に発売されたハードのコントローラとしてはかなり先進的なコントローラではあったのです。というか、バーチャルボーイのコントローラは、従来型コントローラの一つの完成形、到達点と言っても良いと思います。
しかし、バーチャルボーイの画面、出力装置は立体なんです。今だに追随者が現れないほどにすっ飛んだ出力にふさわしいのは、従来の延長線上にある、入力装置なのではなく、出力装置同様にすっ飛んだ入力装置を用意すべきだったのではないかと僕には思えてしまうのです。
簡単に言っちゃいましょう。僕はバーチャルボーイのゲームをバーチャルボーイのコントローラではなくWiiリモコンで遊びたいんです。バーチャルボーイの立体表現を可能にする出力装置には、それにふさわしい立体的な動きをトレースしてくれる入力装置が必要不可欠だと思うんです。バーチャルボーイというハードは、結局は「見た目」の変化によってゲームを変えようとしました。なぜ?「見た目」にそこまでこだわる必要があったんでしょうか?当時のゲームシーンは、3Dのポリゴンゲームの隆盛など、ゲームの「見た目」が大きく変わった時代でした。その「見た目」の変化に対して、横井氏は警鐘を鳴らす側でした、そこに根源的な新しさは無いと、しかし、その横井氏ですら、そういった時代の流れのアンチテーゼとして「見た目」が変わったゲームハードを出してしまっているのです。
もし、バーチャルボーイが「見た目」ではなく「さわり心地」の革新を目指したハードになったらどうなっていたのか?これは最早歴史のifにしかならないでしょう。時代に逆らうということは本当に難しい、横井氏ですら時代の流れから完全に自由な存在としてはいられない、バーチャルボーイというゲーム機を今プレイして思うのは、このハードは決して完全なる異端児なのではなく、結局は、90年代半ばのゲームシーンが生み出した必然の産物なのではないかということです。バーチャルボーイの完成度の高いコントローラを握りながら、僕はそのように考えます。
バーチャルボーイの後継機
以上二点が僕の考えるバーチャルボーイが失敗に到った要因です。バーチャルボーイというハードは、新しいゲーム体験を求めるあまり、ゲームを取り巻く環境面への配慮が足りなかったのではないか?というのが僕なりのまとめになります。
そして、ここまで読まれた方は薄々は感づいてるかもしれませんが、バーチャルボーイの抱えていた問題点を克服しつつ、ユーザーに新しい体験を提供しようとしたのが任天堂のWiiではないかと僕は思っています。TVモニターの特徴である、皆で同じ画面を共有できるという環境面での利点を最大限活かしつつ、ゲームの入力装置、コントローラを新しくすることで、新しいゲーム体験をユーザーに与える、それがWiiのやろうとしたことではないでしょうか。そこに僕は任天堂という会社の継承性、失敗から学ぶ姿勢というものを見ます。「Wiiの間」をやっているとサテラビューを思い出すように、任天堂という会社は本当に何度も何度も同じような挑戦(と失敗)を繰り返しますね。
最後に残った立体視
そんなこんなでバーチャルボーイというハードについて後出しジャンケン的に述べてきましたが、やはり一度は体験しておいたほうが良いハードだと思います。オークションとかで5千円くらいで手に入るんで買うなら今ですよ。やっぱり立体視ってのはインパクトがあるしね。立体的に見える映像によって起こるゲームの革新ってのは、結局バーチャルボーイではあんまり体験できないんだけど、この分野の可能性ってのは、今後も検討に値する問題ではあるんですよ。この点に関してはTVモニターを使用してるWiiですら継承できてないわけですから。このあまりに性急に未来へ行こうとしたハードは、10数年たった今でも、ゲームの未来の姿を我々に問い続けるのです。
ずいぶん長くなりましたが、最後は横井氏の発言を引用して終わりたいと思います。
ファミコンからスーパーファミコンへ移るときに、「こんな難しいゲームはもうついていけない」という人がずいぶん出た。新しいゲームを遊ぶ人は投入する金額が大きいですから、一見売り上げはいいようですけど、ゲーム人口という面では減少しているわけです。
NINTENDO64でも同じことが起こる。ですから、任天堂がテレビゲームを追いかける限り、将来はないのではないかと。もう一度、スーパーファミコンや、ファミコンユーザーを巻き込んだものを作るにはどうしたらいいだろうか。テレビ画面でなにをやっても飽きられているんであれば、立体しかないのではないか。それで、ゲームの底辺の人たちに向けてバーチャルボーイを作ったんですね。
ところが、マニアたちの中に「あんな昔のゲームなんか」という意見があったんですね。私としては「あんたのようなマニアはだまっとれ。あんたたちは相手にしていないんだ。おじさん、おばさんと子供を狙ったゲームなんだ」という気持ちでしたね。
「横井軍平ゲーム館」より
第三回おしまい